「死神・・・・?」




「そうじゃ、観るのは初めてか?」





三叉矛の刃を掴んだまま、と名乗った女は笑う

態度も何もかも隙だらけに見えて、どこにも隙はなく

掴まれた三叉矛はまるで万力にでも挟まれたかのようにぴくりとも動かない





「クハハハ!!死神、ですか!

 死神が僕を観察だなんて、どういうことです?まさか、僕を殺す為に観察に来たという事ですか?」


「だとしたら、どうする?」


「貴女を殺して、僕は生き続けます」





僕にはやるべき事があるのですよ

続けて言うと、骸は掴まれている三叉矛を無理やりに振りほどき

のその白い喉元に目掛けて突き出す

は一歩も動けない。否、動かない


確かに目に見える形で死が迫っているはずなのに、の眸には恐怖も映らず

只楽しそうに口元が歪められるだけであった




「「「!!!」」」




「まぁ、そう事を急くな

 人の話を聞け」






三叉矛はを貫く勢いで、確かに全力で突き出された

しかし、その刃はの喉元を貫通する事は無くその白い喉で刃はぴたりと止まっている

どれだけ力を込めようとそれがの喉に傷を付けることは無い

の両腕はだらりと横に垂れており何かをした気配など微塵も無い

まるで、見えない壁に阻まれているようだ


はその刃を再び掴み、喉元からずらすように僅かに傾ける




「儂はお主の観察に来たといったであろう、殺すとは一言も言っておらん

 儂らが殺すのは、指令された人間だけじゃよ」




言うが、を睨みつけたまま動かない骸に大きくため息を付きながら、言葉を続ける




「最近、この近辺で虚の数が急激に増えておってな」




「・・・・?ホロウ?」




「虚というのは、そうじゃな。簡単に言ったら悪霊の類じゃ。それも強力な、の

 そやつらは心に空いた孔を埋める術を求めて、人や霊を別無く喰らう

 さらに、霊力の強い者達を好んで喰らったりと、性質の悪いやつらじゃ」




「それが、僕の観察というのとどう関係があるというのですか」




三叉矛の先を下ろしながら、しかし警戒は解かずに骸は問う




「お主が、虚に狙われておるからじゃよ」


「!?」


「先程も会ったであろう、虚に」



数秒の思考

そして、先程の異形の化け物を思い出し、骸は静かに戦慄する




「!!・・・あれが・・・

 しかし、なぜ僕が狙われなければならないのですか?」



「ふむ・・・それは、ホレ

 それじゃろうな」




言いながら、骸の赤に侵蝕された右目を指差す




「お主の右目は異質じゃ。

 本来なら、そのような眼あっていいはずがない

 それからくる異様な霊力が彼奴らをお主の元へと引き寄せているのだろう」



「此の眼が・・・」



「本来、常人に見えぬ死神がお主に見えるのもその眸の霊力の責

 後ろの2人に儂が見えておるのは、お主の力の断片がその2人に宿っているからじゃろうな」



「納得したか?」と首をかしげながら尋ね、その漆黒の眸に骸を映し出したままに続ける



「まぁ、納得したか否かは、どうでもよい

 お主の眼が異質であることと、虚がお主を狙っている事、そして大量にいること、儂が死神である事それが事実じゃ

 返事はどうでもよいが観察はさせてもらうぞ」




「・・・・・・」




「何、お主の私生活の邪魔などはせん

 儂は只、ここら一体の虚を殲滅できればよいのだから」





は言って踵を返す



の言う、観察

それはつまり、骸を囮に虚を誘きだし殲滅するということ

これは釣りなのだ、骸を餌に虚を釣り上げる


それらに合点のいった骸は、瞬時に消え去ったを思い出し静かに笑う




「クフフフフ・・・」



「骸・・・さん?」

「骸様・・・?」




「クハハハハハハッ!!おもしろい、おもしろいではありませんか!

 あの女性は、僕を餌に化け物をおびき出すのが目的だという事でしょう?」




「「!!」」




「クフフ・・・おもしろい方だ――

 次に会うときを楽しみにしましょう」





そういって、骸はの立ち去った方向を眺めながらもう一度低く笑った

















外は既に日が翳り、月が顔を出し始めている

夜闇と夕焼けが空を支配する中、は話をしていた


佇まいだけで荘厳な雰囲気を醸し出し、蓄えられた顎鬚はその人物の持つ威圧感を助長するかの如く





「―――解っておろうな、



「・・・勿論です、総隊長―――山本元柳斎重國様」








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