「む・・・さん!くろ・・・ん・・・骸さん!!」




「・・うっ・・・」




自らの名を呼ぶ声に急かされ、意識は闇の中から急浮上する

鈍く痛む頭を抑えながらゆっくりと起き上がると、そこは良く見知る黒曜ヘルシーランドの一室であった




「ここは・・・どうして、僕は・・・」

「よかった・・・よかったれす、骸さんっ!!」

「あぁ、犬・・・どうして、僕はココに・・?先程まで敵アジトに居た筈なのですが・・・」

「それは・・・」

「骸様は、ここの前に倒れていました」

「千種・・・」




タオルと水の入った洗面器を持った千種が、静かにこちらに歩み寄りながら言う

倒れて・・いた?

なぜ僕は倒れていたのか

確かに、敵を殲滅していた所は覚えている

血の海に浮かんだ敵の亡骸を確かに憶えているのだ


だが、其の後何があった?

骸の思考の中でそれらを思い出すのを拒むように何かが覆いかぶさる

後少しで、思い出せる気がするのに


思い出せないもどかしさに吐き気がこみ上げてきそうになる




「話は済んだか?」




突如聞こえた声に、勢い良く声の方を見る

ここには、千種や犬と僕しか居ない筈・・・



「!!」



警戒心を込めた視線を向けた先、そこにいた人物を見て僕は目を見開いた

思い出せない記憶の中、しかし眸の中に焼きついた漆黒

その姿を見たときに、思い出せなかった記憶は全て繋がり一つになる




「お主が倒れていたのでな、ここまで運んできた」




相変わらず漆黒に身を包んだ女は、無表情のまま言う

その無表情の奥底に、何を考えているのかは計り知れない


只堂々と其処に佇むその女に、警戒しながらも、口元には笑みを浮かべて言う




「倒れていた・・ですか

 僕を倒したのは、貴方でしょう・・?」


「「!!」」




言えば、突然の女の登場に驚いていた2人の纏う空気が一変し、敵意をむき出しにしたものに変わる

女はそんな2人に対して臆した様子もなく、首を静かに振るとため息を付いて言う




「はぁ・・・やはり効目は無い、か

 技術開発局の連中の作る物も些か考え物じゃの」


「何が目的で僕をここに運んできたんですか」


「あのままあそこに転がしておいたら、お主は捕まっておっただろうに

 目的と云う程でもないが、用が有るといったら、ある」


「用、とは?」


「お主の観察、と云った所か」









僅かに口元に笑みを浮かべながら言った女の言葉に、一瞬だが呆ける

僕の観察・・・?面白い事を言う




「クハハハッ!面白い事を言うものですね」


「そうか?儂は仕事だからな。さして面白くも無い」


「誰から頼まれた仕事かは、知りませんが

 其の仕事は実行できそうにありませんよ?」


「ほぅ・・・何故?」



愉快そうに女が笑う



「得体の知れない人間に、観察されるのは好きではありませんし・・・

 何より貴女が、今ここで、死ぬからですッ」



言いながら三叉矛を掴んで女に向かい突進する

ともすれば、確実に死にかねないこの状況

しかし、女は慌てた様子もなく、やはり笑いながら言う






「得体の知れない、か

 すまんの、自己紹介を忘れておった


 儂の名は、・・・護廷十三隊所属じゃ」




後少しで、三叉矛の刃がその体が貫く





「職業は――」




刃がその体を貫こうとした時、その刃は女の手に止められる




「!!」





「死神」









    死   神





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