「邪魔するぞ」
「なっ!お前、勝手に入るんじゃねー!!」
骸たちのいる黒曜ヘルシーランドの一室に、は一言だけ告げると入り込む
犬がに噛み付かんばかりの勢いで食って掛かるが、はそれこそ何とでもないと言うようにそれをスルーすると
手近にあったソファの上にどっしりと腰掛ける
ソファに腰掛けた事で犬の吼える声がぎゃんぎゃんとさらに大きくなったが、やはりは気にかけた様子は無く只骸をその漆黒の双眸で見詰めた
じっと骸を見詰める、その間
は月が顔を見せ始めた昨晩を、ゆっくりと思い出した
「―――解っておろうな、」
「・・・勿論です、総隊長―――山本元柳斎重国様」
地に膝を着け、頭を垂れながらは老人―――山本元柳斎重国に言う
のその返事に、満足そうに一つ頷くと
その双眸を薄く開き、を見やる
「失念するでないぞ、。
お主の任がどういうものであるか」
「解っております・・・私は、必ずあの男を―――」
ぼうっと昨晩のことを思い出していたは、はっとし、その思考を途中で止める
それというのも、痛いくらいに突き刺さる犬、千種、骸の視線に気付いたからだ
三人からの視線を一手に受けながら、再び思考の海に浸かる事も気が引けたは視線をきょろきょろと動かす
そんなの視界に骸の服の袖から覗く包帯が入った
「なぁ、お主」
「・・・僕、ですか?」
「ん。そうじゃ
生憎名を知らんのでこんな呼び方ですまないが・・・腕を、怪我しているのか?」
「あぁ・・コレの事ですか
昨日の戦いの時に、少々傷ついたようです」
骸は包帯の巻かれた腕を持ち上げ、かるく袖を捲くってみせる
その腕には包帯がしっかりと巻きつけられ、白い包帯には紅い血が映える様に滲んでいた
はその腕の傷を見とめると、ソファからゆっくりと立ち上がり骸へと歩み寄る
骸の近くに居た千種や犬は、突如動いたに警戒をあらわにして身構えるが
それを骸が目で諌めるように制止した
「この怪我が、どうかしましたか?」
「・・・・」
骸の問いを軽く流すと、は骸の怪我をした方の腕を取る
一瞬骸の顔が痛みに歪んだようであったが、は構わずに腕をじっと見ていた
そして、片方の手を血の滲む面に翳すと小さく呟く
「すまない・・・」
本当に小さな声で呟かれた言葉が、本当にそんな言葉だったかは分からない
だが、の細く白い指先が腕の上の傷口をなぞる度に痛みとは別に胸の鼓動が早まるのは分かった
「終わったぞ」
「え・・あ・・・」
の言葉に我を取り戻し、の手の温もりの残る腕を見れば不思議と痛みが消えていた
恐る恐る包帯をはずしてみれば、先程まではあったあの生々しい赤い傷跡は跡形も無く消えうせていた
「・・これは・・・」
「死神に伝わる呪術、鬼道という
中々、高尚だろう?」
言いながらは微笑む
無表情と皮肉めいた笑みしか見せた事のないの微笑みに、思わず目を奪われた
「主・・・」
「なんです?」
「本当に、すまない・・・」
それは、骸の負った怪我に対する言葉か、それ以外に対する何かか
すまないと、それだけ繰り返すは哀しげに目を伏せて骸に背を向けた
謝罪