雲の守護者はバンビーノ 01
〜調合書の無い薬品は、磯の香り〜
「ねぇ、ユダ
さっきからなに作ってるわけ?」
「んぁ?
あぁ、コレか?」
ボンゴレファミリーにある薬剤を扱う私とユダ専用のラボ
先程調合書と、処方箋の整理を終えた私はヒマになったので横で薬品を作っていたユダへと声をかけた
ユダは私の声に反応して声を上げるものの、視線はフラスコから離さない
薬品調合の為に掛けている眼鏡の奥の紅い双眸は真剣そのものだ
「・・・よし、完成だ」
数分の後、ユダは薬品の入ったフラスコを持ち上げながら私に笑顔を向ける
持ち上げられたフラスコの中の液体は、いきなりの衝撃に大きく揺れた
「で、それって何なのよ?
効能は?毒なの?」
視線はフラスコの中の液体に向けたまま、私はユダへ先程の質問を繰り返す
するとユダは一瞬きょとんとした顔をした後、一言
「・・・・・・・・なんだろうな?」
・・・・・・・・・・・
「アンタ、なに作ってたのか解らなかったわけ?」
心底呆れた表情でユダに向かって言うと、ユダはフラスコを持っていないほうの手を顎に当てて
「なんの薬だったんだっけか・・・?」と考え始めた
調合に熱中するあまり忘れるなんて呆れたものだ
「はぁ・・・じゃあ、調合書は?無いの?」
「あぁー、それなら確か・・・
って、アレ?」
フラスコをコトリ、と机に置いてユダは視線をあちこちに走らせる
机の上、引き出しの中、本の間
「あっれー?」
気の抜けるような声を上げながら今度は手をズボン、スーツ、白衣のポケットに入れて探り出す
「・・・まさか、無いとか?」
「あぁー・・・やべ
うん、無くしたかもしんねぇ・・・」
ジト目で睨みつける私に対して、ばつの悪そうな顔をしながらユダは歯切れ悪く言った
完璧に呆れた視線を送る私に、ユダは乾いた笑い声を上げる
「ちゃんとしないからこうなるんでしょ・・・」
「わり、次から気をつける」
私は座っていた椅子から立ち上がると、ユダが作り上げた薬品が入っているフラスコを持ち上げた
薄い青の色を帯びた液体が、フラスコの中で揺れる
「どんな効能かわかんないヤツは使えないし・・・処分ね」
「えぇー・・・」
と、言うものの尚もユダは作り上げた薬品に未練があるらしく
フラスコを手にしている私の腰にしがみついて縋る
「なー、!
次から気をつけっから処分はナシでいいだろ!?」
「良くない!
毒か何かも分かんないんだから捨てるしかないでしょ!?
元はといえば調合書なくしたアンタが悪い!」
「確かに調合書なくしたのは俺だけどさ!次から気をつけるって!!
毒か何かなんてんなもん、その辺の人間浚うなりなんなりして人体実験すりゃオールOKだろ!?
なんならレヴィでもいいぜ!!」
「オールOKな訳ねーだろうが!!
レヴィでもいい・・・わけない!!危ない・・・ちょっと「いいかもしれない」とか考えてしまったわ!!」
よほど作り上げた薬品に未練があるらしいユダは、とんでもない事を口走りつつも必死に縋る
このままでは本当に人を浚って人体実験でもやらかしかねない
「なー、っ!!」
「くどい!!」
ビュン
「ぎゃーっ!!」
必死に縋り付いてくるユダを一蹴して、フラスコをラボの扉に向かって思い切り投げつけた
風を切って扉に向かって直進するフラスコ
ユダの悲鳴
誰もがフラスコ内の薬品の終わりを想像する中、悲劇は起きた
ウィーン
「ねぇ、
今度の任務・・ぐっ」
ガッシャーン
扉の開く音
現れた雲雀恭弥
割れるフラスコ
全身に薬品を浴びた雲雀恭弥
・・・・・・・
「ぎゃああああっ!!恭弥!!
マンガみたいなタイミングで現れないでよ!!」
叫びながら恭弥へとあわてて駆け寄る
フラスコ内の薬品の色は薄い青だったわけだが、恭弥の髪から滴り落ちる液体が薄い青ではなくて若干赤いのは気のせいではないだろう
ポケットからハンカチを取り出して恭弥にかかった薬品を拭うが恭弥は微動だにしない
これが激しい怒りの前触れだと思うと、物凄く怖い
いっそユダのせいにして逃げてしまおうか
静かなる恐怖に怯えつつ、逃げる算段を立てていると突如恭弥の体がぐらりと傾いた
「ちょ、恭弥!?恭弥!?」
フラスコの打ち所が悪かったのか、と慌てる私をよそに
恭弥の体への変化は、着々と起こっているのであった
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