そして、君は僕にさよならと言った









「酷いなぁ

 オレ、君の事信じてたんだけど?」




「あなたの口から、信じてるなんて言葉が出てくるとは思いませんでした」




「アハハッ!ホント、酷いねぇ」








目の前には嘗ての上司

眉間に銃口を当てられているにも関わらず、その表情は怯えるどころかどこか楽しんでいるようにすら見える






私は、ボンゴレのスパイとしてここにやって来た

異常ともいえる速度で急成長する、ミルフィオーレ・ファミリーの調査をして来い

危険だと感じたならば、ボスである白蘭を仕留めて来いと、任を受けて





事実、このファミリーに潜入して気づいた事は危険だと言うこと

白蘭というこの男も、ファミリーそのものも





私は、与えられた任を遂行する為に何の迷いも無く引き金を引ける自信があった

だって、今までだってそうできたから




だが、これは・・・今回は相手が悪かったというべきか

冷や汗と共に、苦笑とも取れない笑みが零れる





私の最後の仕事として彼のデスクに添えた胡蝶蘭の花が、私を睨みつけるようにして花瓶という限られた栄養供給の場の中で咲き誇る






「オレはね」




「!」





突如口を開いた白蘭に、びくりと体が強張る






「キミがボンゴレのスパイだって、気付いてたよ」




「・・・だったら」




「何で殺さなかったのかって?

 そんなの簡単じゃない、キミの事を気に入ってたからさ」




にっこり、と笑う

白蘭は優雅とも言えるくらいの仕草で椅子から立ち上がると、机を越えて私へと手を伸ばす





「ねぇ、キミはどうだったの?

 オレのこと――――」





「さぁ、ね」





ふっ、と口元に笑みを浮かべて、私をずっと観続けている胡蝶蘭に目配せをする

白蘭の眉間に当てていた銃口をずらすと、自らの心臓にその銃口を突きつけた





「何してるの?」





「ゲームオーバー

 私の負け、ね」




「だったら、ボクの所に来ればいいのに」




「そういう訳にもいかないのよ」




ゆっくりと、引き金を絞る

ギシギシと響く金属の擦れる音が、自分の死へのカウントダウンだと知りながらも自然とあまり恐怖は無かった

只目の前の男の冷たい視線の中に、僅かに哀の色を見た気がして哀しくなった




「ねぇ、白蘭サマ」




「・・・何かな?」




「さようなら」















白だらけのボクの部屋の中、真っ赤に咲いたキミという名の紅い薔薇

花弁の中心で眠る君の頬には涙が伝っていた





「オレはね、キミの事好きだったんだよ

 ―――




が最後に置いてくれた胡蝶蘭の花

その花弁を指先で撫でながら、呟く





「やっと通じたと思ったのに、さようならだなんてね・・・

 神様はよっぽど、オレの事嫌いなんだね」




花瓶の中に悠然と咲き誇る胡蝶蘭を一輪手に持って

その花弁をの上に落す




「さようなら、オレのオヒメサマ」







花葬





(貴方を愛します、ね)
(何でもっと早く言ってくれないのかなぁ・・・)