「・・・・本当に行くの?」



静寂が支配する夜

月明かりが照らす白ひげ海賊団の船の上で、エースに尋ねた

聞かなくても分かってる答えだけど、少しでも一緒にいたかったから





「ああ」

「そっか・・・気をつけてね」

「おぉ」





エースはニカッと笑った

エースの笑った顔は太陽みたいだから、月の光には似合わない気がした

ただ、私が別れるのが寂しいからそう見えたんだと思う

きっと酷い顔をしてる私を、不躾なくらいに照らしてくる月の光のせいで

エースにもその顔はばっちりと見られてしまった

どうしてくれるんだと攻め立てたい気持ちになったけれど

こんな時にも感情が素直に表情に表れる自分の方がどう考えても悪いのだろう






「んだよ、そんな顔すんなよ」

「仕方ないじゃない・・・」

「いつもみたいに笑えって」

「・・・難しいよ」

「そうか?

 こうすりゃ簡単だろ」

「! 

 い、いひゃい!いひゃいよ!」






何をするのかと思ったら、エースは私の頬を摘まんで引っ張った

笑いながら解放された頬は、きっと赤くなっているだろう

熱を持ってひりひりと痛む頬を抑えながら「何するの!」と声を上げれば

「んだよ、面白かったぜ?」と返される

続けて自分の頬も横に引っ張って見せたエースの顔を見て、今度は私が笑ってしまった






「お、笑った」

「あ」






満足げに笑うエースは、わしゃわしゃと私の頭を撫でた

撫でるというよりは、掻きまわす、と言う方が正しいかもしれない

きっと私の髪は悲惨なことになってるだろうけど、適当に手で直すだけで修正は終わらせた







「お前に送り出して貰うなら、笑った顔が良いからな

 さっきの顔じゃ、なんか俺が悪いことしたみてェな・・・」

「そんなに酷かった?」

「あぁ、今にも泣き出しそうな感じだった」

「それは・・・」






恋人が遠くに行ってしまうというのに極上スマイルでいられる訳ないだろう

いや、出来る人もいるかもしれない。単に私が表情に出やすいだけなのかも

私がポーカーフェイスでこんな時も笑って送り出せるような人なら、エースにこんな無駄な心配かけずに済んだのかもしれない

軽い自己嫌悪に陥っていると、突然引き寄せられて勢いよく抱きしめられた

視界が突然エースでいっぱいになり、驚いて目を見開く





「ホントは、連れて行きてェんだけどな・・・」

「エース・・・」

「お前は、ここで待っててくれ」





絶対早く帰ってくるから

エースの声が上から降ってくる

私はエース程強くないし、きっと足手まといになってしまうから、船長も許してくれない

自分の力不足が悔しくて、泣きそうになる

それをぐっと我慢して深呼吸すると、海の香りに混じってエースの匂いがした





「うん・・・」

「心配すんなって!おれは強ェからよ」

「知ってるよ」





またあの太陽みたいな笑顔を私に向けて言ったエースは、私の唇に一つ軽くキスを落とした

離れていくエースの唇が名残惜しくて、首に腕を回して引き寄せると今度は自分からキスした

せめて、エースの温もりだけでもと縋りつく私は、なんて浅ましいんだろう




ねぇ、せめてその温もりだけ






「・・・行ってらっしゃい」

「・・・あぁ」





(本当は行かないでと言いたかった)