「どうしよう・・・また迷子だ・・・!!」



記憶の片隅に僅かに残っている気がしなくも無い

そんな道路を通ったのはこれで何度目か

人の往来の邪魔にならないよう道路の端に寄りながら、頭を抱える

自身の方向音痴の酷さは、良く、良ぉぉぉぉおく理解している



ではなぜ迷子になったのか

それは、恋人・猩影と久々に二人で出かけられるということに浮かれて、道を碌に確認せずに歩いてきたからである

多少慣れた道ですら迷子になる、これが私の方向音痴の酷さを物語っていると言えるだろう



嘆息しながらその場で周囲を見回し、恋人の姿を探す

休日ということもあり往来は人でごった返しているが、生憎猩影は普通の人よりも頭一つ分飛びぬけているため見当たらないと言うことはない

と、いうことは・・・



「帰っちゃったかなぁ・・・」



自身が迷子になって既に一刻は立っているだろう

帰っていてもおかしくは無い

はぁ・・・と、嘆息すると、足元に私のものではない影が落ちる

猩影!と思いパッと顔を上げれば、そこにいたのは猩影とは似ても似つかない男達であった



「おっ、かわいい」


「ねぇ、お姉さん!一人?

 だったら俺達と遊ぼうよー」



軽い口調で良いながら男達はあっという間に私の周囲を取り囲み、下卑た笑みを浮かべながら腕を掴む



「ちょっ・・・触らないで

 私、人待ってますから!」


「えー?そんなん居ないじゃん

 いいから、俺達と遊ぼうよ!」


「っ・・・離して・・・!」



腕を振りほどこうにも、人間の姿では上手く力が入らない

かといって妖の姿に戻るわけにも行かず、男達に路地裏へと連れ込まれそうになる

必死に抵抗を試みる中で、視界の端に猩影の姿が一瞬だけ映る



「猩影っ・・・!」



声を上げるも、喧騒に飲まれて自身の声が掻き消されてしまうのが分かった

視界の端の恋人が、僅かに振り返った気がしたが、次の瞬間には路地裏へと引きずり込まれてしまった




「っ・・・」


「ホント、かわいいじゃんこの子!」


「だろ?

 さすが、俺」



路地裏に軽く放り投げられた私は、尻餅をつきながらも男達を睨み付ける

男達は相変わらず口元に笑みを浮かべて、ジロジロと私を見ながら話をしていた

ここで妖の姿に戻って、私の畏でこいつらを・・・・

などという考えがよぎるが、それでは若頭の意向に背く形になってしまう



「んじゃまぁ、楽しいことしますか」


「っ・・・触るな!!」



そうこう考えているうちに、男の中の一人の手が伸びてくる

反射的にその腕を払えば、周囲の男達の様子が変わった

私が大人しくしているような女ではないと判断したからだろう

各自私の動きも、声も封じようとジリと近づいてくる



(猩影・・・!)



咄嗟に恋人の名を心の中で叫べば、男達の上に頭一つ分大きい影がスッと落ちた

私からは逆光だが、それでも見間違えるはずは無い



「猩影・・・!!」


「てめぇら・・・俺の女に何してやがる」



怒っているのだろう地を這うようなドスの利いた声が、猩影の口から漏れる

猩影の長身と、その迫力に男達は一瞬たじろぐもすぐに数で理があると考えてか、猩影への攻撃へと転じた

中にはナイフなどを持つものもいる



「猩影危ない・・・!」



さすがに得物を持っているのは危ないと、声を上げるも勝負は一瞬でついた

素手で向かってくるものは受け止め、投げ飛ばし

得物を持って向かってくるものは得物を持つ手を捻り上げて、最後はご丁寧にも得物を持ち主の顔スレスレのところにまで投げ返していた

猩影が一歩踏み出せば、倒れたまま猩影を見上げる男達の肩が大仰に揺れる


「次は無ェ」



ギラリと猩影の紅の瞳が男達を見下ろすと、ヒィ!と情けない声を上げながら蜘蛛の子を散らすように男達は逃げ去っていった

猩影が来てから一瞬で片付いた事に呆けて尻餅をついたままでいると

嘆息しながらも近づいてきた猩影が手をとって立たせてくれた



「何やってんだ、


「ごめんなさい・・・」


「怪我は?」


「無いよ」


「・・・そうか」



再び大きく嘆息した猩影は、目線を私に合わせるように屈む

猩影の紅の瞳に見つめられて、私は視線が逸らせなかった



「・・・また迷子か?」


「うっ・・・ごめんなさい・・・」



的を得た問がグサりと心に突き刺さるようである

うぅ・・・と唸りながら頭を垂れて謝罪すると、ぽんと猩影の大きな手が頭に置かれる



「別に怒っちゃいねぇよ」


「ホント・・・?」


「あぁ・・・ただな」


「ただ・・・何・・?」


「次から出かけるときは俺がお前の家まで迎えに行く」


「え・・・!?そ、それは悪いよ!」



猩影に頭をくしゃりと撫でられながらも、猩影に言う



「なんも悪くねぇよ

 それよりお前がまたこんな目に会うほうが、俺の心臓に悪い」


「うっ・・・」


「わかったな?」


「はい・・・」


「良し」



猩影は満足げに笑うと私の頭から手を離した

代わりにぼうっと立ち尽くす私の手を引く



「ほら、行くぞ」


「行くって・・・」


「だってお前・・・今日はアレだろ・・・

 久々のデートだろうが」




頬をかきながら照れくさそうに猩影が言った

背が高いので見上げても上手く顔をうかがうことが出来ないが、こっちを向かない事から察するに猩影の顔は今赤いのだろう

そんな彼の様子にこちらまで気恥ずかしくなりながら「うん」と頷くと、私の手を引いて猩影は歩き出した



「猩影」


「なんだ?」


「いつもありがとう

 私だけの妖様」


「っ・・・俺には、ガラじゃねーよ」


「騎士のほうがよかった?」

「そういうわけじゃねぇ!」




(それにしても・・・さ)

(ん?なんだよ)

(この身長差だと、なんだか兄妹に見られそうだよねぇ)

(まぁ・・・俺の背が高ェからな)

(うん)

(恋人同士だって分かるように、姫抱きでもしてやろうか?)

(!!い、いいよっ!そんなのっ!!)




上手く落ちないなんという駄小説・・・
ただ言いたいのは猩影君が好きすぎてやばいのです←