夜の闇が空を支配し始める時間

奴良組若頭のリクオ様が夜の姿へと変わる時間である


リクオ様はお気に入りの場所である庭の桜の木の枝に腰掛け、杯を傾けながら浮かぶ月を眺めていた


舞い散る桜の花びらと、月に照らされたリクオ様の姿はとても幻想的で

そこに確かにいるはずなのに、いないように錯覚させられてしまう

彼の鬼發に飲まれているのかもしれないな、などと考えながら、縁側からリクオ様と同じく浮かぶ月を眺める







名を呼ばれ顔を上げると、目の前には桜の木の上にいたはずのリクオ様の姿があった

突然目の前に現れたリクオ様に驚いていると、彼は私の横に腰を下ろす



「呆けてねぇで、お前もどうだ一杯」


「私は結構です」


「つれねぇな」



くっと喉で笑い、リクオ様は今度は私の横で杯を傾ける

これだけ近くにいるのに、やはり触れられない気がするのはリクオ様が私にとってどこか遠い存在だからなのだろうか

そう思うとなぜだか悲しくて、胸が締め付けられるように痛む

リクオ様の姿が見れなくて、誤魔化すように月を見上げれば先ほどまで雲ひとつ掛かっていなかった月には雲がかかり、輝きに翳りを落としていた

そんな月に自身の心境を重ねて嘆息する



「どうした?」


「え・・・いえ・・・なんでもないです」


「なんでもない訳ぁねぇだろ

 話してみろ」



な?とリクオ様に話を促されるも、こんな事を話せる訳も無い

なんでもないですよ、ともう一度言って微笑むとリクオ様は僅かに眉を顰めて「そうか」と呟いた



「もう夜も更けてまいりましたし、リクオ様も夜更かし為されませぬよう

 そろそろお休みになってはいかがです?」


「あ?夜はこれからだぜ?」


「もう・・・では、私の方はそろそろ寝かさせていただきます」



杯を傾けながらニヤリと笑うリクオ様に、ため息をつきながら

自身の寝床へ向かおうと縁側から立ち上がる



「まぁ、待て」



言うが早いがリクオ様が立ち上がる私の腕を取る

夜風に当たって冷えていた体が、リクオ様に触れられている箇所から熱くなる



「行くな」



鋭いながらも僅かにすがる様なリクオ様の目に、何も言えずに再び縁側へと腰を下ろす

訪れる沈黙に、何か言うべきなのかと思案しながら視線を彷徨わせる



「昼の俺は、いつもお前と一緒だろう?」



「え・・・あ、私も護衛ですから・・・」



突然のリクオ様からの問に、若干声を上ずらせながらも答える

リクオ様は眉を相変わらず顰めたままで、私のほうをまっすぐ見詰めてくる



「護衛だから、か
 
 今の俺の時には中々傍にいようとしねぇじゃねぇか」


「そ・・・それはお屋敷の中ですから護衛も入りませんし・・・」


「ふん・・・それで、か」


「はい・・・」



俯き加減に言えば、リクオ様は私との距離を縮めて至近距離から私を見据える

その視線に顔を上げれば、目を逸らすことができずに捉われる



「あ・・・あの、怒ってらっしゃいますか・・・?」


「あぁ、そりゃぁな」


「・・・すみません」



視線をリクオ様から逸らして謝ると、小さな嘆息がリクオ様から漏れる

いたたまれなくなってリクオ様をこれ以上不快にさせないよう、この場からどう立ち去ろうと思案していると、リクオ様が言う



「昼と夜の俺じゃあ、お前と一緒にいる時間が明らかに違う」


「は・・・?」



少しむすっとした様子で言うリクオ様に、思わず間の抜けた声が出る

それで、彼は怒っているのか

素っ頓狂な声を上げる私に構わず、リクオ様は自分のもののように私の膝に頭を乗せた



「夜の俺は今しかお前に会ってられねぇんだ

 もう少しここにいろ」



呆ける私が逃げられないよう、顔は私から背けながらも頭を膝からどかす気はないらしい



「俺から離れていこうとするんじゃねぇよ、

 傍にいろ」



ぽつりと呟かれたリクオ様の言葉に、ずきっと僅かに胸が痛んだ

そうか、遠く感じていたのは、私のせいだったのか

私など置いて、どんどん成長を遂げていく彼を遠く感じていていたのは、私のせいか




「はい」



リクオ様の呟きに小さく頷いて答えれば、満足げに彼は身じろぐ

膝の上に乗ったリクオ様の豊かな髪を撫でる

この人は、いつでも傍にいてくれようとしたんだ

こうして、触れられる距離に




「この、夜のお姿の時も、昼のお姿の時も

 リクオ様のお傍でこれからも仕えてまいります」


「・・・あぁ」






 

 

 



(ん・・・?リクオ様!!・・・!?

 な、なぜこのようなところで寝っ・・・二人で!)

(どうした首無・・・っ!?!?リクオ様となんでこんなところで!?)

(ちっ・・・うるせぇなぁ首無、黒)

ななななななぜこのようなところで二人で寝ていらっしゃるのですか!?

(あぁ?・・・
ふっ(ニヤリ)

((
うわぁぁぁぁぁぁああああ!!!ーー!!!))