「器用に髪を結うものだな」


「んー?これぐらい容易いもんじゃろ」


「そ、そうか・・・?」



手馴れた様子で手早く髪を結う狒々の姿を見て、感心したように呟く

そんな私に軽く返事を返しながらも、狒々は鮮やかな色の紐を顔の横で蝶々結びに結い、面をつける

能面で覆われた顔がこちらを向けば、そこにはいつも通りの狒々がいた




、お前はいつも同じ髪型じゃのう」


「まぁ・・・私は器用ではないからな・・・」




狒々は毎度髪の結い方を変えているようで、毎回結い紐の結び方が違ったり

編んで合ったりと髪型を工夫しているうようである

しかし、私はと言えば、自身で器用でないのを自負しているのもあるだけあって

自慢ではないが一つに髪を結わえたり、見える部分で髪留めを使って髪を止めるので精一杯であった

故に、男でありながらも器用に髪型を変える狒々の器用さが少し羨ましくあった




「偶には雰囲気を変えてみるのも良いかもしれないぜぇ?」


「出来るものなら結っているのだがな」


「三つ編みぐらいは出来るじゃろ」


「出来ぬ」



きっぱりと言い切った私に狒々は呆けたような顔になる

能面を付けているためはっきりと見た訳ではないが、そんな顔をしているのだろう

狒々からすればたかが三つ編み程度、だろうが私からすれば三つ編みとはかなりの高難易度である



「なんだ、文句でもあるのか」


「文句って訳じゃあないがの・・・

 、ちょっとここに座れ」




狒々はぽん、と先刻まで自らが座っていた鏡台の前を叩き座るように促してくる

私が言われるがままに鏡台の前に向かうと、座布団ではなく狒々の足の上に座らされた



「!な、何をする気だ」


「身構えなくても、今は何もする気はないぜぇ

 それとも、なんじゃ?

 お望みだってなら、してやっても・・・」


「断る!」


「即答か

 つまらんのー」



つまらなさそうに良いながら狒々は私の髪に手を伸ばす

大きな狒々の手で髪を撫でられると、とても気持ちよくてつい寝そうになる




「ほら、出来たぜぇ」


「ん・・・!髪が・・・!」



狒々の足の上でうとうとしてたのだが、ぽんと頭に手を置かれたことでゆっくりと目を開ける

鏡台に映った自身の髪が三つ編みに結われ、狒々の持ち物である結い紐で綺麗に結ばれていることに驚愕し完璧に目を覚ました


うとうととしていた時間は大して長くないはずだが・・・と狒々の手際の良さに感動しながら狒々を振り返る



「狒々・・・!コレ・・・!!」


「おー、似合ってるぜ

 偶には良いもんじゃろ、髪型を変えるのも」


「あ、ありがとう!」




自身が何度挑戦しても出来なかった三つ編みを簡単にやってのけた狒々に少し悔しい気持ちを抱きながらも

してみたかったこの髪型にしてもらったことが嬉しくて、狒々を振り返りながら礼を言う

一瞬髪を撫でる狒々の手が止まったのを訝しく思う間もなく、次の瞬間には抱きしめられた




「お、おい狒々?」


「やっぱりお前は可愛いのう!」


「は?!」




突然何を言い出すのか

狒々の腕から抜け出そうともがくが、力を加減しているはずの狒々の腕からも抜け出すことが出来ない



「髪ならワシがまた結ってやる」



抱きしめられたままの為、狒々の声が耳元でするためぞくりと肌が粟立つ



「じゃから・・・」


「あ・・・!」


「結った姿を見せるのは、ワシの前だけでな」



他のヤツらに見せるのは、もっとワシが堪能した後じゃ、と言いながら狒々は私の髪を結んでいた結い紐を手で弄ぶ

編まれた髪はあっという間に元の真っ直ぐな状態へと戻り、さらりと肩に落ちた

不満げに狒々を見上げれば、狒々は被っていた面をずらして笑った



「そう怒んなよ


「せっかくの三つ編みだというのに・・・」


「じゃあここだけ結っといてやるよ」



言って狒々は顔の横の髪を一房だけ掴むと、再び器用に編み始め、少しもたたない内に綺麗に三つ編みが完成した

最後に先ほど髪を結っていた結い紐で髪を結うと、狒々は満足げに頷く

そして、自身の結ってある髪を掴み上げると



「ほら、おそろいじゃ」



ワシのは編んでないがのー、と言って笑った

なんだか気恥ずかしくなって俯くと、狒々が顔を覗き込んでくる



「なんじゃ、嫌か?」


「嫌・・・じゃない・・・」


「そうか!」



至近距離で嬉しそうに笑う狒々を見て、こちらまで嬉しくなる

狒々の顔が近くにあることで余計に気恥ずかしくなりながらも、狒々に向かって言う



「わ、私は・・・」


「ん?なんじゃ?」


「お、お前と揃いで・・・その・・・嬉しいと思う・・・」


「!

 そうか!ワシも嬉しいぜぇ」





 


(いかんの・・・あんまりが可愛いことを言うから・・・)

は?いやいやちょっと待て!!)

待てん

(ちょ、
やめろぉぉぉおおお!!

朝から何をやっておるか狒々!!!

(げっ、牛鬼・・・)






落ちが・・・!!!。・゚・(ノД`)・゚・。