「何用だ?狒々」


「ん〜?せっかくの酒宴なのに別嬪さんが一人酒なんてしてたら気になるだろうがよォ」



ニヤリ、と面の奥で笑っているのだろうこの男は

酒瓶と猪口を片手にやってきた狒々は、遠慮無しにやってきては私の横にドカッと腰を下ろす



「ふん・・・騒がしいのが苦手なだけだ」



毎日が宴会のようなこの奴良組において、騒がしいのが苦手であると言うのは致命的である気はする

しかし、組に入る以前は一人で行動をすることが主であった私にとって

こうして様々な妖に囲まれての生活は、未だ慣れたものではなかったのだ

狒々はそれを聞いてか聞かずか、自身の持っていた猪口に酒を注ぐと被った面を口元の部分だけずらして酒を飲み始める

酒に濡れた狒々の唇が月に照らされて妖艶に光り、視線が思わずそこに向かってしまった

雑念を振り払うように頭を左右に振って、嘆息しながら狒々に向き直る




「はぁ・・・聞いていたのか狒々?」


「あ〜?聞いてたぜ?騒がしいのが苦手なんじゃろ?」


「ならば戻れ

 私は一人で飲むのが好きなんだ」


「俺一人だけなら騒がしくもなんねぇだろ?

 そう言うな、偶には一緒に飲もうぜェ?」


「お前が動かぬのなら、私が移動する」



猪口を持ち上げて、口の端を持ち上げて笑う狒々を睨み付け、自身の酒瓶と猪口を持ち席を立つ

ドスドスと荒い音を立てながら狒々の横を通り過ぎようとすれば、パシッと狒々に手を掴まれた

一回り大きい手が自身の手を掴み、突然のことに驚く私に

さらに狒々の腕を下に引く力が加わったことでストンと狒々の横に腰を下ろす形になる



「なっ・・・!」


「堅ェこと言うんじゃねぇよ、偶にはいいじゃろぉ?」



私の腰を抱き寄せながら、狒々は笑う

ずれた面から覗く鋭い眼に、不覚にも胸が脈打つ

紅くなった頬を見られまいと、狒々から猪口を奪い注がれていた酒を一息に飲みきる

おぉ、と感嘆の声が狒々から上がるが早いがすかさずに口を開く



「きょ、今日だけだ!」


「ハハッ、そいつァありがたいのー」


「だ、だから・・・」


「ん?」


「は・・・離れろ!」



片手を狒々の厚い胸に当て、遠ざけるように突っ張るが

さすが狒々というべきか、私の力ではピクリとも動かない

それどころか、狒々は笑みを余計に強くして離れるどころか徐々に距離を詰めるように近づいてくる



「は、離れろ!」


「あ〜?こんな美味しい状況なんだぜェ?離す訳ねェだろぉ?」


「何も美味しくなどない!」



熱を持った私の顔は、今狒々から見れば真っ赤なのだろう

必死に抵抗する私を面白がるようにさらに笑みを深くした狒々は、ずれていた面を完全に外し、両腕で私の体の自由を奪うと、畳の上に組み敷いた



「好いた女を今まさに自由に出来るって状況なんだぜェ・・・?

 美味しくねぇ訳ぁねぇだろ」



「っは・・・?!」



狒々の突然の発言に、目を白黒させる

何を言っているのだこの男は突然



「なっ・・・何を言っているんだ貴様は!!
 
 酔っているのだろう!悪ふざけは止せ・・・」



「残念ながら酔ってもいねぇし、悪ふざけでもねぇんだよなぁこれが」



相変わらず口元は笑っているが、狒々の目は真剣そのものであった

どくっと脈打つ心臓がさらに狒々を意識させる



「ワシは、嘘はつかねぇぜぇ?

 今すぐお前を犯してやりたいと思うぐらいに、お前のことを好いてるぜ、



「っ・・・言うことが率直過ぎるっ・・・!!阿呆!」



口をぱくぱくさせながら私がようやく言った言葉に、狒々は喉の奥で笑いながら言う



「んで?どうなんじゃ、お前は」



「な・・・何がだ」



「ワシのことどう思っとるんじゃ」



「わ・・・私は・・・」




狒々をどう思っている?

確かに他の組の面々よりも、一目置いた存在と言うか思わず視線が向いてしまう存在ではある

しかし、それが好いているということなのだろうか

ぬらりひょんの大将に抱くような畏敬の念を他者に抱くことはあっても、恋慕うような思いなど抱いたことが無いため、自身の感情が良く分からない

答えを探しあぐねて、言葉を詰まらせる私に狒々は小さく嘆息すると、一瞬だけ悲しげに目を伏せる

その狒々の姿に、ズキッと胸が痛んだ気がした



「まぁ・・・焦るこたぁない・・・!?」



一瞬だけ緩んだ狒々の拘束から抜け出し、両腕を自由にすると狒々の頬に手を当て

そのままの勢いで口付ける

呆けた顔をしている狒々を、真っ赤に染まっているであろう顔で睨み付けながら言う



「私は・・・まだ"好き"という感情が良く分からない

 お前のことを自身が好きなのかも、良くわからない

 ただ・・・そばにいたいとは思う」



呆けた顔をしていた狒々は、言葉を聞くと面を被りなおしてから向き直り、両腕で私を再び抱きしめた

加減をしてくれているのだろうか、痛みは無い



「それで十分だ

 まずいのう・・・・絶対今面を外せん」



僅かに赤くなった狒々の頬が、面から覗く



「ニヤけが止まらん

 のう、


「な、なんだっ」



「子供は何人が良い?」



「気が早いわ!阿呆!!」







(何やら向こうの座敷が騒がしいな)

(狒々とと良い仲になったみてぇだぜ)

(はぁ?!)




狒々様口調分からん・・・