わたしが想った人には、好きな人がいた
わたしよりもずっと聡明で、綺麗で
わたしよりもあの人に、ずっと相応しいんだって分かっているんだ
「・・・」
名前を呼ぶことさえ、躊躇われる
あの2人の空間に、私がいることさえ、そもそもおかしいのだ
それでも、私にはどこか行きたい所など無かったから
だから、少しでも彼のそばにいたかったんだ
この空間にいることは、たまらなく辛いのだけれど
彼の視線が少しでも私に向いてくれたならば、どれだけ嬉しいのだろう
「どうした、?」
「え・・・?」
私の様子を不思議に思ったのか、ヴィンセントはルクレツィアさんから視線を外して私の方を見やる
やっと私を見てくれたけれど
あぁ、どうせなら今見てくれなくても良かったのに
「なんでも、ないよ?」
ほら、今にも泣いてしまいそう
どうせ叶わぬ恋ならば、出会わぬ方が幸せであったのに
(・・・?)
(ううん、ごめんなさい
なんでもないの)