僅かにギンの霊圧が残っていた室内

それももう、感じられないくらいにこの部屋の主は帰ってきていない

否、もう帰ってくることは無いのだろう

彼が藍染隊長達とともに、虚圏へと消えた時にもう分かっていたこと、なのに諦めがつかない

心も身体も彼を待っているのは、本当に愚かしい事だと分かっているのにどうしても、忘れられない

それだけ私の中で彼という存在が占有していた個所は余りにも大きかったということで

いつものように彼が帰ってくるのではないかと一縷の望みに縋るように彼を待つ





さん・・・」



「・・・イヅル君」





今日も隊主室に足を運んでいる私の元へ、副隊長であるイヅル君がやってきた

彼も副隊長として、いろいろと大変なんだろう

元々白い顔が、さらに血色悪く見える

心なしかやつれた顔は、部屋の主が居ないことを再確認するとさらに影を落とした






さん・・・隊長は、もう・・・」



「うん・・・分かってるんだけどね・・・」




疲れたように微笑みながら、イヅル君に言う

彼はそれを聞くと、悲しそうに顔を歪めた





「分かってるんだけど、来ちゃうんだよ

 またここで『、なんや僕に会いたかったん?』とか言ってくれそうで」



さん・・・」



「いっつも来なくていいときにひょっこり現れる癖に、なんで、いて欲しい時にはいないのかなぁ・・・?」





頬を涙が伝う

笑おうとしているのに、上手く笑えない

これでは、イヅル君を困らせてしまう

止めようとしても止まらない涙は、次から次へと流れて頬を流れ落ちる






「隊長は・・・卑怯ですね」



「え・・・?」



「居なくなっても、さんをずっと縛りつけている」



「・・・そう、だね

 ずるいよ、ギンは


 ・・・・居なくなってこんなに辛いなら、最初から私の中に居なければよかったのに」





そうすれば、ぽっかりと空いたこの心を持て余すことも無かったのに

そうすれば、貴方が居ない事に涙を流すことも無いのに


言いたいことは沢山あるのに、当人はいない

困ったような顔をしていたイヅル君は、いつの間にか私のすぐそばにまで来ていた

驚く私の顔に伝う涙の跡を、そっと指先で拭う





「僕じゃ・・・」


「え・・・?」


「僕では、ダメですか?」


「!」


「貴方の心に居るのは、僕ではだめでしょうか」





真摯な瞳でイヅル君に見つめられ、心臓が早鐘のように打つ

彼がそんな冗談を言う人間でない事は知っている

彼が言っていることは本気なのだろう

本気で、私の事を想ってくれているのだ



それでも、私は





「ごめんね、イヅル君」



さん・・・」



「やっぱり・・・私、ダメみたい

 ごめんね・・・本当に・・・」





上手く笑えているだろうか、否また私は泣いている

イヅル君の顔が悲しく歪む

あぁ、私はこんなに優しい人を傷つけてしまった

彼の事しか考えていない、自分勝手な自分を想ってくれたこんなに優しい人を傷つけてしまった

嗚咽を漏らして泣く私を、イヅル君は優しく抱きとめてくれる

本当に、ごめんなさい

私には、あの人だけだった







依存の庭

(隊長は、やっぱりずるいですよ)



 

これイヅル可哀そうすぎるだろ・・・!!!