殿、まだ起きてござったのか」





「幸村様」





縁側に佇み月を見上げていたに、幸村が声をかけるとゆっくりと振り返る

いつも大人しいではあるが、いつも以上に儚さを感じさせるその風貌に

どこか不安になった幸村は近づき隣へと腰を下ろす


今宵は満月。

美しく輝く月が、の横顔を照らす


のもつ幻惑的な美しさを、月の光が一層引き立てていた





「今宵は、月が綺麗でござるな」





「そう、ですね・・・」





「どうなされた?元気が無いようだが・・・」





不安げに幸村が尋ねると、は月から視線を離して、幸村へと振り返る

僅かに紅い色を帯びたの双眸が、切なげに揺れる





「この戦乱の世、いつまで、こうして幸せな時間を過ごせるのかと、考えていたのです」





至るところで戦が起き、次は我が身と怯える日々

そんな日々の中で、安息の時間などほんの僅かに過ぎない


女性であるも、武田の為に、幸村の為に

武器を手に取り戦場へと駆り出していた


いつ命を落とすか分からない、いつ、大切な人がいなくなってしまうか分からない

そんな不安を抱えながら過ごしてきて、の心は不安に押しつぶされそうになっていた





「私は今、こうして幸村様と過ごすこの時間が、とても幸せです」






殿・・・」





「でも、いつまでもこのような時間はあってはくれません

 私は

 
 幾度貴方といられるのでしょう」






言葉と共にの瞳から涙が零れ落ちる。


幸村は静かに立ち上がると、に背を向けながら語り始める





殿

 約束をしよう」



「約束・・・ですか?」



「某は、死なぬ







「某は、殿を残して、死なぬと誓う」



「幸村様・・・」



「だから、殿も、某を残して死なぬと誓ってくれ


 某も、殿と共にいたい」




振り返りながら言った幸村の言葉に、は静かに頷いた

心から不安は消え、変わりに幸福が満ちる


2人の間に結ばれた誓いを、月だけが静かに聴いていた

誓いの成就を、祈るように輝きながら







月明かりの祈り、万感の願い