「さすがよ、三成

 いつまでも我について来い」


「ははっ・・・・!!!

 ありがたき・・・ありがたき幸せ・・・!!」



秀吉の言葉に、頭を垂れて感極まった様子の三成を半歩下がったところじっとで眺める

戦終わりの秀吉への報告では見慣れた光景ではあるが、この日のはどこか様子がおかしかった



「?どうしたんだい、くん」


「へ?!い、いえ!何でも御座いません!
 
 秀吉様、半兵衛様、申し訳ありません

 私、下がらせていただきますね」


「構わないよ

 ご苦労だったね、ゆっくり休んでくれ」


「うむ」


「ありがとうございます

 失礼致します」



半兵衛の問いに、どこか焦った様子のは一礼すると部屋を出て行った

三成も垂れていた頭を上げて、の消えて行った方向を不思議そうに見つめる

半兵衛はそんな様子を見つめながら、顎に手をやって考え事をしていたが

訝しげな表情を浮かべる三成と、いつもどおりの憮然とした態度の秀吉を見て合点が行ったように「あぁ」と小さく呟いた




「どうした、半兵衛」


「いや、少し思うところがあってね

 時に三成君」


「はっ」


「君はくんをちゃんと労っているのかい?」


「は?」



半兵衛の思わぬ問いに、思わず気の抜けた声を出してしまう三成

三成のその様子に少し苛立った様子で半兵衛が腕組みをすれば、三成は背筋を伸ばして居住まいを正した



「は?ではないよ」


「申し訳御座いません・・・!!!

 そ、その半兵衛様の問の意図が掴めず・・・!!!」


「言葉通りの意味だよ

 くんをちゃんと労っているのか聞いているんだ」


を・・・」



思い返してみるが、特段労った記憶も無い

眉間に皺を寄せながら記憶の糸を手繰る三成にのその様子に、半兵衛は大きくため息を付いた



「その様子だとさっぱりのようだね」


「はっ・・・申し訳御座いません・・・っ!!!」


「はぁ・・・

 謝るのは僕と秀吉にではなくて、くんにだよ」


に・・・ですか」



未だに言わんとすることを解さない様子の三成に、半兵衛は再び大きくため息をつく

半兵衛のため息にびっくっと肩を揺らした三成は、再び深く頭を垂れた



「三成君、先程秀吉から『よくやった』と言われてどうだった?」


「そっ・・・それは・・・

 身に余る光栄であり、これからも秀吉様の為にこの身例え塵芥と成り果てようとも尽くすと再び硬く心に誓いました・・・!!


三成よ・・・


うん、キミならそうだろうね

 あのね、僕が言いたいのはそういうことだよ

 くんにも、偶にはそう言った言葉をかけてそういう気持ちにしてあげるべきだと言っているんだ」


「言葉を・・・

 わっ、私は秀吉様から例えお言葉を頂けなくとも、この身朽ち果てるまで尽くす所存で御座います!!!」


三成っ・・・!!!


「キミのその忠誠心は良くわかってるよそういうことを僕は言っているんじゃないんだよ

 秀吉もいちいち感極まらなくて良いよ、話の腰を折らないでくれるかい」


「ぬぅ・・・」



こめかみを押さえながら話す半兵衛の剣幕に、秀吉も押し黙る

三成はといえば、頭を下げたままではあるが、その剣幕に大量の冷や汗が頬を伝い落ちていた




「いいのかい、三成君

 そんなことではくんはキミから離れていくよ」


「なっ・・・が私から・・・!?」



思いもよらなかったのか、半兵衛の言葉に驚愕に染まった顔を上げる三成

呆れた顔の半兵衛は三成を見下ろしながら続ける



「まったく・・・くんは優しいからね
 
 キミにいくらぞんざいに扱われようともキミに必死について来ていたのだろう

 しかし、それもいつまで続くことやら」



「そ・・・そんな・・・よ、が・・・私の元を・・・

 私を・・・裏切るっ・・・!?」


裏切りじゃないよ

 自業自得じゃないか



「そんなっ・・・!!」



いつだって横で微笑んでくれていたの姿が消える様を想像し、三成は身を震わせた

そんな三成の様子に、半兵衛に怒られて黙っていた秀吉も口を開く



「三成、上に立つ者が下の者を鼓舞することも立派な勤めよ

 を労ってやるが良い」


「秀吉・・・様っ・・・!!

 ははっ!!!失礼致しますっ・・・!!」



言うが早いが、三成は秀吉達に頭を下げ少し慌てた様子で部屋を出て行った

やれやれと首を振りながら半兵衛は本日何度目かのため息をついた



「全く・・・世話が焼けるよ」


「三成も、良い臣下を持ったのものだ」


「秀吉、本当にくんが三成くんにとってただの臣下だと思っているのかい」


「む・・・それはどういうことだ半兵衛」


「・・・そのうち分かるよ」


「ぬう・・・」




















秀吉たちの部屋を出た後、は城の中を特に行く当てもなく彷徨っていた

秀吉から労いの言葉を貰い、感動する三成の姿は幾度となく見ていたが

思い返してみて自身が三成からそう言った言葉をかけてもらったこともなく、自分が本当に彼にとって必要な存在であるのかと考え始めてしまったら

なんだか三成たちが居る部屋にいるのが気まずくて、飛び出してきてしまったのだ


「おっ、ちゃん!」



声に振り向けば、そこには片手を上げて微笑む左近が居た

少し沈んだ今のは、左近の屈託のない笑みに安心させられる



「あれ、三成様は?

 一緒じぇねぇの?」


「三成様なら、秀吉様のところです

 私は先にお休みを頂いているところですよ」


「ふーん・・・」



左近は顎に手をやって少し考えた風に首を傾げた

そうして少し考えた後、唐突にきょとんとした表情のの顔を覗きこむ



ちゃんさ、三成様となんかあった?」


「えっ・・・」


「いやさ、実は少し前の廊下を歩いてるときからちゃんのこと見てたんだけど

 元気ねぇって言うか・・・戦帰りで三成様と一緒じゃないって言うことはなんかあったのかなぁってさ」



少し気まずそうに左近は言う

はパチパチと数回瞬きをした後に、口元を手で覆って少し微笑んだ



「すごいですね左近さん、バレてしまいましたか」


「おっ、当たり?

 いや、喜んで良いことじゃねえよな、ごめん」


「ふふっ、良いんですよ」


「うーん・・・俺でよかったら話し聞くけど・・・?」


「良いんですか?」


「ぜーんぜん!構わねぇよ」


「ありがとうございます。

 では、左近さんの所に参りますね」


「じゃあ俺茶菓子でも買って待っ「許さん!!!!!」ん?」


突然聞こえてきた声にと左近は声のした方へ目をやる

そこに立っていたのは、いつ刀を抜いてもおかしくない様子の三成だった

思わず固まる左近と、驚く

あと半刻は秀吉の元から戻らないと思っていただけに、三成の登場には目を丸くして固まっていた




「み、三成様?!なんでそんな機嫌悪いんすか?!」


「どうなさったんです?」


「どけ、左近

 こい、


左近を押しのけての腕を引く

左近の横を通り抜け際に、三成が強く左近を睨みつけたので左近は顔を引きつらせて退いた


「え?え・・・・?!

 あ、あの・・・三成様・・・?」


「・・・・」
















なぜ機嫌の悪い三成に腕を引かれるのか、何かしてしまったのかと慌てるなど気に留めた様子もなく、腕を引いて廊下を進む

暫く進んで角を曲がりきったところで、三成はの腕を開放して立ち止まった



「あの・・・三成様・・・?」


「お前は・・・」


「え?」



恐る恐る三成に声をかけると、三成はゆっくりと振り向いた

視線を下に落としたまま、と目を合わせないようにしながら三成はようやく口を開いた



「お前は・・・左近の元へ行くのか・・・?」


「え・・・あ、はい
 
 先ほど、約束しましたので」


「っ・・・!!!」



が頷くと、開放したばかりのの腕を先程より強く掴む

痛みに少し顔をゆがめたが、それよりも三成の悲しそうな表情が気になっては痛みを訴えるのを止めた



「私は・・・お前に、に感謝している」


「ど・・・どうなさったのですか・・・?」


「戦場で、どれだけ危険な目に遭おうとも私の傍を離れず

 変わらず笑んで私の名を呼ぶお前に、救われているのだ・・・」


「三成様・・・」



慈しむ様に手で頬を包み、親指で頬を撫でる



「私が悪かった・・・だから・・・私の元を去るなっ・・・」



「んっ・・・!!ふっ・・・」



「はっ・・・っ・・」




三成は逃がさないといったようにの頭を抑えて口付ける

驚きと深い口付けの息苦しさに三成の胸を叩いてようやくは開放された

荒い息を整えながら、突然の主君の行動に戸惑いの色を浮かべる




「三成様・・・どうなさったのですか・・・?」


「・・・」


「私は・・・私は三成様の元を、去ったりしません・・・!」


「!本当か・・・!?」


「勿論です」



にっこりと微笑みながら言えば、ようやく安心したようで三成は表情を緩める

が、それも一瞬で再びの腕を掴むと鋭い目で問う



「しかしっ、先ほど左近の元へ行くと・・・!!」


「あれはただ、左近さんにお話を聞いていただこうと思っただけですよ・・・?」


「で、ではあれは・・・、廊下でせ、接吻していたではないか!?」


「せっ・・・!?何のことです・・・?私が?左近さんと?

 左近さんはそんなこと、私にしませんよ

 左近さんが私を心配して、顔を覗き込まれただけです」


「っ・・・!!!」



を追って秀吉様の部屋を出たあと、廊下で左近との姿を発見して様子を伺っていたとき

左近の顔がに近づいたのを見て、動くことが出来なかった

これが半兵衛様の仰る自業自得か、と思えば左近に対する怒りは沸かぬこそすれ、喪失感で歩を進めることすら忘れてしまった

そのとき、呆然とする三成の耳に僅かに「左近の所へ行く」と言うの声が届いて、三成の体はほぼ衝動的に動いた

自らの起こした行動を思い返し、三成はを解放して背を向ける

は突然開放されて一瞬驚いたが、三成の耳が赤く染まっているのが見えてくすりと小さく笑った



「三成様」


「・・・なんだ」


「必要としてくださって、ありがとうございます

 一瞬でも、私など不要なのではと疑ってしまったこと、お許しください」


「私が・・・、私がお前を不要に思うことなど、あるはずがない!!」


「これからも、お傍で戦わせてくださいね」


「当然だ

 戦場でなくとも、お前が私の傍を離れることなど、許可しない」



ぶっきらぼうに言うも、その表情と言葉は優しいもので

背を向けたままの三成の手を取ってはにっこりと笑った



「貴方から頂いたその言葉、ずっと忘れません

 これからも宜しくお願いしますね」


「・・・これからは・・・お前を労うよう私も勤める」


「はい」







凶王の飴









「へーえ、おアツいことで」


「あの二人・・・特に三成君は世話が焼ける・・・

 キミも大変だね、左近君」


「うおっ、半兵衛様いつから!?」


「三成君が君のところからくんを連れて行った辺りからかな」

 
「ほぼ最初からじゃねっすか
 
 ・・・もう慣れたっす」


「やれやれ・・・」









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20140706
オチ・・・!!!(絶叫
三成好きすぎてツラいっす
豊臣軍はほのぼのしてて欲しいね


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